倉庫ロボット、RPA、人工知能活用…「物流&宅配業界」が注目する最新テクノロジー

ネットショッピングが一般に広く普及した現在、買い物の利便性は飛躍的に向上した。ワンクリックすれば数日と待たず、お目当ての商品が家に届く。そのようなショッピング方法は、年代を問わず、幅広い層の消費者にとってライフスタイルの一部にさえなりつつある。

その社会の変化の渦中で、大きな悩みに頭を抱えている業界がある。宅配業界だ。ここ数年、少子化や労働者派遣法の改正などの影響で人手不足が深刻になる一方で、ネットショッピングを通じた配送量は激増。各企業が困難な経営状況に直面しているという報せが、日々、メディアや巷をにぎわせている。

そんな宅配業界の苦境を象徴するのが「再配達問題」だ。国土交通省は2015年に、「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について」と題した資料を公開している。そのなかには、「全訪問回数に対する不在訪問回数」、つまり物流業者が再配達を余儀なくされるケースが、全配送業務の19.1%に達するとの試算があった。5回に1回は再配達。しかも、そのコストや、業務全体の管理を企業側で負担しなければならない。そう聞くと、なぜ「再配達」が物流業界で死活問題になっているのか、業界内部の人間でなくともリアリティーを持って想像できそうだ。

ネット通販の急成長と労働需給の逼迫

2017年3月初旬には、日本の宅配最大手・ヤマト運輸が、宅配便の基本運賃を引き上げる方針を固めた。同社・長尾裕社長は、次のように背景事情を説明する。

「ネット通販の急成長と労働需給の逼迫で、事業の継続性に危機感を覚えるようになった」(「日本経済新聞」電子版2017年3月7日付)

ヤマト運輸が全面値上げを敢行するのは、実に27年ぶりの出来事だそうだ。今後、アマゾンなど大手クライアント企業と値段交渉を進めながら、無料で行ってきた再配達についても、有料化を視野に入れた協議を進めていくとしている。加えて、配達受付締め切りの時間短縮、宅配ロッカー設置計画の前倒しなどあらゆる対策を用意して、経営を立て直していく計画だ。

そのように、何かとネガティブな話題が多い物流業界だが、当事者たちはただ手をこまねいている訳ではない。人手不足を解消し経営を合理化するための、積極的な試みがはじまっている。なかでも打開策として注目を集めるのが、新たなテクノロジーを導入して業務全般をより「自動化」していくというものだ。

物流業界にける「人手」とは、実際に荷物を届けるスタッフだけを指すものではない。荷物が集まる倉庫の管理や、荷物の仕分けにも人手が必要になってくる。そのため前述のヤマト運輸は、約1400億円をかけ、輸送拠点のひとつである羽田クロノゲートの“改革”を推し進めてきた。仕分けラインの自動化に注力した結果、従来と比べて全作業員の約3割、ラインに限定すれば約7割の人員削減に成功したと伝えられている。

ニトリホールディングスグループの物流子会社・ホームロジスティクスも、作業の効率化や人手不足解消のために、物流ロボット「バトラーシステム」の導入を決定した。今年中にまず、大阪・茨木市にある「西日本通販配送センター」に、79台がテスト導入される予定だそうだ。

RPAの導入で、バックオフィスにおける定型業務の効率化

物流業界ではまた、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が、にわかに注目されはじめている。RPAとは、人工知能などの技術を駆使した「ホワイトカラー業務プロセスの自動化」を指す。別名では「仮想知的労働者(Digital Labor)」とも呼ばれており、バックオフィスにおける定型業務(宅配で言えば伝票整理や在庫管理などの業務)の効率化を促し、大幅な作業時間削減や生産性拡大に資すると期待されているテクノロジー、およびソリューションだ。

宅配業界における日本企業のそのような動きは、自動化された設備および施設の質を上げたり、人工知能使って従来のタスクの効率を高めることで、不足している労働力を補う=経営を安定させるという意図に立ったものだ。一方、人工知能を使って宅配の需要を満たす、もしくはまったく新しい発想で物流の形を変えてしまおうというビジネスが、米国を中心に動き出している。

例えば、食料品配達を手がける「instacart」が代表的だ。同サービスを簡単に説明するならば、食料品を購入・配達してほしいユーザーと、宅配スタッフをマッチングするITサービスとなる。なお、ここで言う宅配スタッフとは、制服を着た専門の宅配スタッフではない。instacartにプロフィールや空いた時間などを登録して買い物をサポートしてくれる、“半宅配スタッフ”たちだ。さしずめ、タクシー配車サービス・ウーバーの宅配業者版と言ったところだろうか。

特筆すべきは、instacart側が宅配スタッフの業務可能時間と、ユーザーの時間的な需要を最適化するため、人工知能などソフトウェアを強化している点だ。同サービスは、配送員の位置情報、天候、希望配達時間などデータを活用し、配達オペレーションや物流網を構築。「1時間以内に届ける」という謳い文句の常に実現すべく、体制強化に勤しんでいるという。宅配業者にとっては、ある意味、新たな競合の登場ということにもなりそうだが、人工知能というエッセンスをどう活用するかという面では、ヒントを提供してくれてもいる。

人工知能を使った完全無人物流システムの実現

少々未来的な話にはなるが、日本政府としては人工知能を使った完全無人物流システムの実現に前向きだ。2030年を目標に、人工知能、ドローン、もしくは自動化された施設・設備を連携させ、顧客が希望する時間帯に配送を可能にする体制を構築しようという戦略を立てている。その戦略の根底には、少子化などによる日本の宅配業界の衰退を防いだり、新たな流通の形を模索しようという意思が見てとれる。

なお現在の時点で、ヤマト運輸が取り扱う宅配物のうち、すでに約40%がネットショッピング関連の商品という統計もある。今後、ネットショッピングがさらに普及するとすれば、考えられるシナリオは大きくふたつではないだろうか。ひとつは、値段があがる、もしくはサービスの質が切り下がるというもので、すでに現実に起こりはじめていることでもある。

もうひとつは、現在浮上しはじめている諸課題が克服され、ネットショッピングの莫大な配達需要を取り込める新たな物流プロセスが登場するというものだ。おそらくそのためには、人工知能など最新テクノロジーを駆使した、現場およびバックオフィス業務の自動化・効率化は非常に重要な要素のひとつになる。さらに言えば、少子化による人手不足が避けられない場合、物流業界にとって、それらテクノロジーはイノベーションの源泉として欠かせないものになる可能性が高いはずだ。