「製造業からサービス業へ」…人工知能とビッグデータがもたらす新たな金脈と社会変革

市場に流通するあらゆる製品がインターネットに繋がり、IoT化する流れが着々と進んでいる。こうした製品を通じて収集された複雑かつ膨大なデータ=ビッグデータは、企業に消費者の製品使用行動を深く理解する機会を与える。そればかりか、近年では既存の企業のビジネスモデルを変化させ、新たなチャンスを創出する可能性さえ見せはじめている。

「IoT×効率的なビッグデータ分析」がもたらす変化として、ここ数年、注目されている動向がある。製造業社からサービス業社へと“衣替え”をし始めた、世界の企業群の動きだ。

タイヤメーカー大手ミシュランの変化

なかでも世界大手タイヤメーカーである仏ミシュランの例は特筆に値する。ミシュランは、運送会社に対して走行距離に応じてタイヤのリース料金を請求するサービスを、数年間から顧客に提供しはじめている。いわゆる「サービスとしてのタイヤ(Tire as a Service)」だ。サービスの全体像としては、経営コンサルタント・大前研一氏の著書『IoT革命』(プレジデント社)に、分かりやすい解説があったので引用したい。

<(ミシュランのTire as a serviceは)車体のエンジンとタイヤにセンサーを搭載し、燃料消費量、タイヤの空気圧、気温、スピード、ロケーションなどのデータを収集する。3G回線を通じてクラウドに転送されたそれらのデータを、ミシュランの専門家が分析し、「タイヤの交換時期が迫っている」「空気圧が高すぎる」といったアドバイスを運送会社に送るのである>(前掲書15ページ)

上記の引用からお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、同サービスは単純なリース事業ではない。ユーザーとなる運送事業者などは、走行距離に応じたリース料に加えて、メンテナンス料などを含めたトータル金額をミシュラン側に支払う仕組みになっている。

つまりミシュラン側としては、これまでのように単純に自社製品をハードウェアとして売り出したり、貸し出したりしているわけではなく、膨大なデータに裏打ちされた分析結果という“商材”に基づき、修理やメンテナンス、廃棄といったサプライチェーン全体に関わりながら「サービス」を提供しはじめていることになる。

ミシュランが展開する同サービスにおいて、ユーザーが金額を支払って得られる対価はタイヤというハードウェア製品ではない。運用コストを最適化して得られる利益、言い換えれば、走行距離に応じて変化する“成果”だ。

前掲書で大前氏は、「タイヤ販売の市場規模は約6兆円~7兆円。これに対し、サービスとしてのタイヤの市場規模は、約50兆円が見込まれる」と述べており、巨大な成長力を秘めているといえよう。

データ活用はサービスロボット業界でも…「RaaS」の登場

データ活用によって、製造業からサービス業へのビジネス拡大を目論むのは、ミシュランのような伝統的なメーカーだけではない。新たに需要が拡大されると見られている、「サービスロボット業界」でもその動きが顕著だ。

流通業における倉庫、病院、また警備の現場などでは、人間の代わりにロボットが投入される実例が少しずつだが着実に増えつつある。それらロボットを開発・提供する企業のいくつかは、すでに「サービスとしてのロボット(Robotics as a Service、以下RaaS)」を、ビジネスモデルの中心に据えはじめている。

現在、RaaSのビジネスモデルを採用している企業には、ドローンを活用して農業地域を測量するPrecision Hawk、監視用ロボットのサービスを行うナイトスコープKnightscope、病院用の輸送ロボットを提供するAethon、モバイル遠隔診療ロボットメーカーInTouch Health、無人水中探査ロボット開発メーカーLiquid Roboticsなどがある。

上記の企業らは、顧客の嗜好、もしくは在庫状況や診療情報など現場で生成されたデータを、ロボットを通じて収集。顧客がロボットを使いやすいようにサポートしたり、調整作業を支援するサービスを提供している。つまり、単純に製品を販売するのではなく、技術サポート、メンテナンス、アップグレードなどで、より多くの収益を得るビジネスモデルを最初から選択しているということになる。そして、そのRaaSを可能にしているテクノロジーのひとつが、ビッグデータの活用だ。

例に挙げた企業群のように、製造業社がサービス業社として新たなビジネスチャンスをつかむためには、課題もある。そのひとつに、次々と収集される膨大かつ複雑なデータを、正確にモニタリング・分析するための手法を確立することが挙げられる。そうなると、優秀なデータアナリスト、そして人工知能(AI)の存在が欠かせなくなってくる。

人工知能とデータ活用が促す企業と社会の変化

おそらく今後、多くの製造業者がサービス業者としてビジネスの裾野を拡大していくはずだ。日本では、空調機大手・ダイキン工業が、人工知能とビッグデータを駆使したビジネスモデルの開発に乗り出している。「エアコンの故障時期予測」や、NECとともに進めている「AI・IoTを用いて知的生産性を高める空気・空間の実現に向けた共同研究」などが、その一環だろう。ダイキンのウェブサイトには、次のような一文も掲載されている。

<ダイキン工業は、空調機器を中心とした空気制御の分野で数多くの技術を有しています。さらなるビジネス領域拡大に向け、モノづくりからコトづくりへとビジネスの質の変革を目指し、顧客の求める空気ニーズに対応した空間の創造など、新たな価値創出に向けた取り組みを推進しています>

現在、先進国の消費者を中心に、シェアリング・エコノミーや、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が広く受け入れられつつある。その背景に、大量生産・大量廃棄型の消費行動への懸念や懐疑、環境への配慮、そして何より「良いもの長く使いたい」という需要があるのは間違いない。多くの製造企業はその価値観の変化にうまく対応しながら、新たな価値を生み出すことを強いられ始めている。人工知能などを援用したビッグデータ活用は、それら新たに浮上した企業のビジネス的課題の克服、さらに一歩進んで、新たな経済の在り方を生み出す重要なファクターになるはずだ。