保育現場に投入されるAI…保育士の負担低減&待機児童問題解決に寄与

東京を中心に先鋭化する待機児童問題

日本社会が抱える社会的課題のひとつに「待機児童問題」がある。

厚生労働省が公表している「保育所等関連状況取りまとめ(平成 28 年4月1日)」によれば、2016年4月時点の待機児童数は2万3553人。2010年には2万6275人いた待機児童は、2014年に2万1371人まで減少したが、2015年(2万3167人)、そして2016年と再び増加傾向を見せている。

なお待機児童の数は都道府県によって大きく異なる。上記資料によれば、1位は東京都8466人、2位は沖縄県2536人、3位は千葉県1460人となっている。一方、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、鳥取、青森の各県は0人となっている。統計から見えるのは、待機児童問題は日本社会全体というよりも、首都・東京で顕在化している問題と言うことができるのではないだろうか。

待機児童問題の背景にはさまざまな要因があるが、その中でも特にネックになっていると言われているのが「保育士不足」だ。「朝日新聞DIGITAL」の記事「保育施設の25%、保育士ら不足 人材取り合いも」(2017年6月9日付)には、次のような一文が掲載されている。

<保育施設の4分の1は保育士らが足りず、うち2割弱は職員不足を理由に児童の受け入れを制限していることが、独立行政法人福祉医療機構の調査でわかった。(中略)調査は昨年9~10月、同機構の融資先の全国5726施設を対象にインターネットで実施。1615施設(28・2%)から有効回答を得た。25%の404施設が昨年9月1日時点で「不足あり」と回答。そのうち18・3%の74施設は児童の受け入れを制限していた。また、職員不足対策として21・3%の86施設では、時間外労働を増やしていた>

保育士の業務負担を軽減するAIサービス

上記のような「保育士不足による待機児童の発生」という悪循環を断ち切るため、現在、保育業務の負担を人工知能で軽減しようというサービスが登場し始めている。

数ある保育業務のうち、保育園での撮影および写真の仕分け業務の負担軽減に着目しているのが、名古屋のIT企業・ユニファだ。保育園では、運動会や学芸会などイベントが目白押し。その写真を整理して保護者に渡す作業は、意外と骨が折れるものだ。

ユニファは保育園で撮影された子供の写真を、ウェブ上で保護者に販売するサービスを展開しているのだが、そのサービスの肝はAIが写真を仕分けしてくれるというもの。仕組みとしては、保護者が子供の写真を登録するとAIが画像認識し分析。候補となる写真を、保護者に提示してくれる。同サービスは保育園など1500以上の施設ですでに導入されており、年間の売上高も数億円に達すると言われている。

一方、神戸のベンチャー企業・シンクチューブは、動画カメラと人工知能を組み合わせて、乳幼児の見守りに活用しようとしている。乳幼児は、昼寝など睡眠時に突然死することがあるが、その数は年間100人以上にのぼるという。

シンクチューブが開発を進める「見守りシステム」は、睡眠中の乳児の顔色、脈拍、呼吸をAIで判別し、異常が発生すると保育士などに警告を送る機能を持つ。同社は保育施設とともに実証実験を進めており、2017年内に実用化に踏み切る意向だ。

保育園で乳児の突然死が起これば、保育士に責任問題が降りかかるのは想像に難くない。また保育士が自責の念から、職場を離脱してしまうケースも想定しうるだろう。シンクチューブは、乳幼児の突然死をテクノロジーで解決しようとしているが、その恩恵は保育関係者にとっても少なくないはずだ。「毎日新聞ウェブ版」の記事「突然死防止 AIで赤ちゃん見守り 神戸のベンチャー企業」(2017年1月10日付)には、シンクチューブの実証実験に参加する保育士のコメントが寄せられていた。以下、引用したい。

<突然死はいつ起こるか分からない。泣いたり、むずかったりする子の対応に追われ、全員に目が届かない時もある。代わりの見守り技術があれば助かる>

保育・育児の問題は世界的な課題

待機児童の問題は、日本(特に東京)で先鋭化している問題だが、世界に目を向けてみると、保育および育児の領域で社会的課題を抱えた国は多い。その最たる例は中国だろう。中国では、待機児童ならぬ、留守児童(都会へ働きに出た両親と離れて農村で暮らす児童)問題が浮上して久しい。そして、その課題を解決する手段として家庭用AIロボットへの期待が爆発的に高まっているという。中国・深圳市ロボット協会の畢亜雷秘書長は、AI Lab編集部の記者が以前、取材した際、中国の課題、またビジネス事情について次のように説明した。

「統計によると、中国には7000万人ほどの留守児童がいると言われており、親子のコミュニケーション不足が問題になっています。家庭用ロボットが児童の孤独感を減らし、情感を与え、同時に親の仕事と家庭の両立を手助けする。そういう未来像を実現するため、AI×家庭用ロボットの開発に拍車がかかっています」

保育や育児は、児童のその後の人生を大きく左右する分野だ。そのため、AIなどテクノロジーを使ってコミュニケーション自体を自動化することは好ましくないという意見もある。とはいえ、人手が足りないがために、社会から置きざりにされてしまった子供たちがいることもまた事実だ。日本においては、保育士の業務負担の軽減、また待機児童問題を根本的に解決してくれるテクノロジーの登場に期待したい。