AIスタートアップの買収が過去最大規模に…日本でも始まる人材争奪戦

2017年第1四半期の買収数は過去最高に

スタートアップの資金調達状況など企業情報データベースを提供するCB Insights が、昨月5月にレポートを発表した。それによれば、2017年の第1四半期に世界のIT企業大手などが買収したAIスタートアップの数が、34社にのぼることが分かった。これは、前年同期に比べて2倍以上増加した数となる。また四半期間の買収件数としては最高となる2016年第3四半期の記録(28社)を更新した。AIビジネスの主導権を握ろうという世界各国企業の動きはここ数年活発だが、今年もその勢いは止まりそうもない。

同報告書を引用したロイターの記事(2017年5月26日付け)は、捕捉としてグーグルが2012年以降、AIスタートアップ11社を買収したことを伝えている。またアップル、フェイスブック、インテルなども買収に力を注いでいると言及した。

なお海外現地メディアの取材に対し、上記の企業群は詳細なコメントを避けているとのこと。最近、ほぼ唯一情報が明かされたのは、アップルがLattice Data(以下、Lattice)を買収した案件だ。これは、アップルのスポークスマンから暗に言及したコメントを元に、「TechCrunch」の取材チームによって事実が確認されている。

非構造化データを扱うLattic…アップル「AIアシスタント強化」が狙いか

Latticeは、LChristopher Ré氏、Michael Cafarella氏、Raphael Hoffmann氏、Feng Niu氏らが2015年に創業した企業だが、その実体はほとんど知られていない。ただ非構造化データ(英語ではダークデータとも呼ばれている)を、構造化データへと変換するAI技術およびシステム「Deep Dive」を開発する企業だという点のみが明かされている。

非構造化データおよび構造化データとは何か。東京エレクトロンデバイス株式会社のウェブサイトに定義があったので参考までに引用したい。

・非構造化データ
<画像や音声、動画データ、文書など、従来のデータベースモデルにうまく適合しない、構造定義を持たない非定型なデータを指す>

・構造化データ
<データベースに格納されるデータ。顧客情報や経理データ、販売データ、在庫データなどが挙げられ、データベースシステムにより、データの検索や並び替えなどをすることができる>

現在、世界では日々膨大なデータが生まれている。その量は2020年までに44ゼタバイトにまで膨らむ見通しだ。ただそれらデータは、70%〜80%が非構造化データ。そのため、処理や分析などデータ活用の領域で有効活用できていない状況が生まれつつある。Latticeは、その非構造化データに焦点を当て、マシンラーニングでデータの構造化を達成することをひとつのビジネスチャンスとして捉えていた向きがある。なおアップルがLatticeを買収して何をしようとしているのかはまだはっきりと分かっていないそうだが「Techcrunch」の記事(2017年5月14日付け)には、以下のような情報があった。

<Latticeは、AmazonのAlexaやSamsungのBixbyを含む「AIアシスタントを改良することに関して、他のハイテク企業と協議している」ということであり、つい最近も韓国で時間を過ごしていたそうだ>

アップルもAIアシスタントの強化を狙いLatticeを買収したのだろうか?

日本でも始まるAI企業争奪戦

2017年入り、5月末時点まで行われたAI企業買収劇のうち、最大規模となったのは自動車メーカー・フォードによるArgo AIの株式取得だ。フォードは2017年2月に、米自動運転ベンチャーArgo AI に10億ドル(約1130億円)を投資する旨を発表している。ゼネラル・モーターズやトヨタ自動車といった最大手企業も同規模の投資を表明しているが、自動運転分野でのAI企業争奪戦もさらに加熱していきそうだ。

なお今後は、ヘルスケア・医療、また小売分野のAIスタートアップの買収が進むという予測がある。今年に入り日本では、人工知能を活用したパーソナルヘルスケアアプリを提供するスタートアップ・FiNCが、カゴメ、第一生命保険、未来創生ファンド、明治安田生命保険相互会社、ロート製薬などから合計20億円を調達したと明かしている。

現在、世界中で相次ぐAIスタートアップの買収劇は、「AI人材の囲い込み」とも言い換えることができるかもしれない。稀少なAIエンジニアを戦力として引き入れるため、その会社ごと買ってしまおうという背景事情があるのではないだろうか。「WIRED」の記事(2017年1月3日付け)には、そのAI人材争奪戦についておもしろい表現があった。

<マイクロソフトの研究主任を務めるピーター・リーは、優秀なAI研究員を獲得する費用は、NFLのクォーターバックを獲得するコストに匹敵すると言う>

編集部の取材に答えた某大手SSP事業者関係者によれば、すでに日本でも「大手企業を中心にAI人材の争奪戦は着々と始まっている。ただ対象を上手く見つけきれていないもどかしさがある」とのこと。今後、ビジネスのアイデアもさることながら、有力な人材発掘・確保が企業側の大きな課題のひとつとなるかもしれない。