AIの飛躍的な発展で地殻変動が起きているグローバル半導体市場

人工知能(AI)の飛躍的な発展は、技術の進歩と離して考えることはできないだろう。AI発展のブレイクスルーとなったディープラーニング(深層学習)には、膨大なデータ量と、それを処理するための超高性能なコンピュータが必要だ。情報化社会になって久しい現在、データ量に困ることはほとんどない。そうなると重要なのは、超高速処理が可能なコンピュータとなるのだが、求められるのはCPUよりも「GPU」の性能だ。

GPUとは3次元のコンピューターグラフィックス(CG)を処理するための半導体のこと。CPUもGPUも同じようなタスクを処理できるのだが、登載されているコアの数はGPUのほうがはるかに多い。GPUの作業をAIの学習に特化させることで、学習速度が飛躍的に向上する。

AI向け半導体の“覇者”はNVIDIAか

そのため、昨今のAI革命を背景に半導体市場には変化の波が押し寄せている。

現在、半導体市場で不動の1位に君臨しているのはインテルだ。「日本経済新聞」(電子版2017年5月31日付)の記事「孫氏も投資 AI半導体の雄、米NVIDIAの実像」によると、世界の主な半導体メーカー年間売上高の順位は、インテルを先頭にサムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)、クアルコム、ブロードコム、SKハイニックスなどが続いている。日本メーカーでは東芝の9位が最高。アップルは14位、ソニーは15位となっている。

しかし前出の記事タイトルを見てもわかる通り、AI時代の半導体市場では、年間売上高16位に過ぎないNVIDIAが「AI向け半導体の“覇者”」(「ダイヤモンド・オンライン」2017年5月23日付)になりつつあるという。

NVIDIAは1993年に創業した半導体メーカーで、売上の約80%をGPUが占めている。同社のGPUは任天堂のゲーム機「スイッチ(Nintendo Switch)」に採用されたことでも注目を集めた。自動運転などAIに関係する企業から引く手数多で、2017年5月にはトヨタ自動車との協業も発表している。NVIDIAの時価総額は2016年初で約1兆7700億円だったが、2017年5月末時点で約8兆4200億円にまで急騰している。

NVIDIAのCEOで共同創業者のジェンセン・ファン氏は「弊社のGPUを使ったディープラーニング・プラットフォームは研究者や大手IT企業、スタートアップなど未来を切り開く人々に支持されている。NVIDIAのデータセンターGPUを使ったビジネスは前年比で3倍近く伸びている」と話している(「フォーブス」日本語電子版2017年5月15日付「AI革命で独走のNVIDIA半導体分野でインテルに圧勝」参照)。半導体メーカーのトップであるインテルも、GPUではエヌビディアの後塵を拝しているのだ。

“王者”インテル、“巨人”サムスン電子の逆襲

とはいえ、NVIDIAの躍進をその他のメーカーがただ指をくわえて見ているわけではない。

複数の韓国メディアによると、サムスン電子が約1兆6000億円を投資して建設した半導体の新工場はこの6月末にも本格的な稼動を開始するという。敷地面積289万平方メートルという世界最大の半導体工場だけに、サムスンの意気込みが伝わってくる。

また半導体市場の王者インテルは、2015年末にAI用半導体として有力視されている「FPGA」大手の米Alteraを約2兆円で買収しており、今年3月にはイスラエルの半導体メーカーであるMobileyeを約1兆7000億円で買収すると発表していた。「日経ビジネスオンライン」の「始まった半導体の王者インテルの逆襲」(2017年5月25日付)という記事によると、インテル幹部は「まだAI用半導体のデファクトスタンダード(事実上の標準)は決まっていない。我々はAI用半導体のメインストリームが何になるかを現時点では想定していない。これが主流だと今の段階から打ち出すよりも、時流を読んでどの半導体が主流になっても対応できるようにする」と話している。虎視眈々と逆襲を目論んでいるといえそうだ。

半導体メーカーだけの争いではない状況に

半導体市場を狙っているのは、半導体メーカーばかりでないところも見逃せないポイントではないだろうか。

例えば、グーグルは2017年4月に発表した論文で、自社開発した半導体「TPU」がGPUより最大で30倍高速だと指摘。実際に5月には第2世代となるTPUを発表しており、「グーグルにNVIDIAへの対抗心があるのは明らか」(「日経ビジネスオンライン」前出記事)だという。

また、2015年1月にイスラエルの半導体メーカーAnnapurna Labsを買収したアマゾンも、自社ブランドで半導体事業に参入。その他にもマイクロソフトやオラクルも半導体製品を製造しているのだ。

そしてアップルもGPUの自社開発に乗り出している。これまでiPhoneに搭載された画像処理能力を支える技術を提供してきたのは、半導体メーカーのイマジネーションテクノロジーズだったが、2017年4にその関係は打ち切られた。「WIRED」の記事「独自のGPU開発はアップルの切り札になるか」(2017年4月9日付)は、「理由は単純だ。画像処理は他社に任せておけないほど重要な技術だと判断したからである」と解説している。

AIの飛躍的な発展によって、求められる基盤技術が変化を見せている昨今。半導体市場における生き残りをかけた競争はますます過熱していくだろう。