「InsTech」がもたらす保険業界の劇的な変革

コンサルティング会社・アクセンチュア株式会社の最新レポート「Technology Vision for Insurance 2017(テクノロジービジョン2017 保険業界向け)」(2017年7月26日発表)によれば、保険会社の経営幹部の75%(日本では67%)が、AI(人工知能)によって今後3年間で保険業界全体が大きく変わる、もしくは完全に変容するだろうと考えていることがわかった。

第一生命が2015年に、ビッグデータやAIなど最新のテクノロジーを活用して生命保険事業独自のイノベーションを創出する取り組み「InsTech(インステック)」(「保険(Insurance)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語)を提唱して以降、同業界内にも一気に改革の波が押し寄せている。

そもそもInsTechの推進には、他分野同様に、高齢化、人口減少といった社会的な情勢が背景にあった。従来の生命保険は、病気にかかってからでは加入することができないか、もしくは割り増しの保険料などを支払うことになってしまい、保険を必要としている人ほど入りにくかった。しかし、このままでは人口の減少とともにビジネスの幅が狭まってしまうため、「保険に入りたいのに入れない」人を減らす必要が出てきたのだ。

第一生命と日立が研究するInsTech

では、具体的にどんな取り組みが行われているのか?

例えば先の第一生命では、まず「一人ひとりの健診結果と健診受診後の入院・手術などとの関係を分析し、将来の疾病罹患の予測に加え、その重症度や続発症、併発症などの予後の状況も予測するモデルの構築」、さらに「第一生命が有する保険の引き受けに関する医学的知見・ノウハウと、日立が有するデータサイエンススキル・ノウハウの融合による、両社における医療データ・サイエンティストの育成・強化」を掲げ、2016年9月より日立製作所と共同研究を開始している。

<今は、『病気であってもこういう条件なら引き受け可能』という判断が、医療ビッグデータ分析などによって可能になってきています。さらには、契約や保険金支払いが迅速に過誤なく行われるよう、ロボティクステクノロジーなどを活用して事務を効率化することも考えています>(「Insight for D」2017年4月18日付記事「日本初! 第一生命のInsTech戦略」の第一生命・拝田恭一氏インタビューより引用)

これまで保険会社が保持するデータは、被保険者が加入時に提出する健康診断データと、給付金請求があったときの診断書データだけだった。だが、医療ビッグデータの活用によって、どのような経過で病気になり、死に至るかといった途中のデータを得ることが可能になった。そうした医療ビッグデータの高度な解析に向け、AIなどの最新統計技術の研究も行われているという。

この共同研究を通じて第一生命は、保険アンダーライティング機能(保険の引き受けた支払い査定機能)の高度化などを目指し、「引き受け範囲の拡大」「商品・サービスなどの開発への応用」「最先端解析技術の活用研究」に取り組んでいる。

保険アンダーライティング機能については日本生命もまた、いずれ全自動化することを目標にAIの導入を表明している。顧客が人間ドックで受診した診断結果のデータ約600パターンのうち、特定の20~30項目を抽出する実験を始めるなど、AIが処理できる仕組みを整備していこうという。

コールセンター業務にもAI導入

一方、損害保険ジャパン日本興亜(以下、日本興亜)は2016年2月、コールセンターの一部においてAIや音声認識技術を活用した「アドバイザー自動知識支援システム」の運用を開始した。同システムは、利用者とコールセンタースタッフの通話をテキスト化し、そのデータをもとに、複数の要素技術を活用したAIがデータベースから問い合わせに対する最適な回答候補を検索。コールセンタースタッフが使用するパソコン上にリアルタイムで表示する。これにより回答時間の短縮を図る目的だ。スタッフは、顧客への回答の後にシステムが導き出した回答候補の正否をフィードバックすることでシステムに学習させ、回答候補表示の精度向上につなげていく。

コールセンター業務へのAIの導入は、日本興亜だけでなく、三井住友海上火災保険やあいおいニッセイ同和損害保険でも行われている。IBMのAI技術「Watson(ワトソン)」を使用して、コールセンターに集まる顧客の声を分析し、業務の合理化とサービスの向上に役立てている。

OCRと組み合わせた保険証券分析アプリも登場

また、2016年8月には、保険ショップ「保険クリニック」(全国163店舗、 2016年9月1日現在)を運営するアイリックコーポレーションが、「生命保険証券自動分析アプリ」の開発に着手。このアプリは、同社が代理店向けに提供している保険証券分析機能と、グループ会社の株式会社インフォディオが開発した、画像認識技術で写真から文字を抽出しテキストに変換する人工知能OCRスキャナー「文字スキャン」を融合させたものだ。スマートフォンなどで保険証券を撮影するだけで、その保険会社の証券の書式に合わせて自動で「生命保険証券分析シート」を作成し、保険の比較検討を容易にするという。これまで膨大な知識と経験が求められたコンサルタントの負担軽減と、保険証券の解析を担当する人材の能力の個人差をなくすなど、さまざまな活躍が期待されている。

こうした中で、矢野経済研究所もまた2017年5月に、「国内InsTech市場に関する調査結果(2016年)」を発表した。その中で同社は、2016年度の同市場の規模(参入事業者売上高ベース)は460億円になる見込みで、AIなどを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場をけん引したと分析している。これまで保険会社の業務プロセスのうち、引受査定や保険金・給付金の支払いなどにAIが導入されてきたが、2017年以降もその適用範囲はさらに広がっていくだろうと予測している。

そうした未来に向けて、前掲のレポート「テクノロジービジョン2017」の中でアクセンチュアの金融サービス本部保険グループ統括マネジング・ディレクターの林岳郎氏は次のように分析している。

<AIやロボットは、従来はバックオフィスの業務支援や効率化、あるいはコスト削減を目的に活用されていましたが、最近では顧客対応の領域にまでその活用の幅を広げています。一方で日本においては労働時間の削減が即人件費の削減にはつながりにくいという雇用環境もあり、AI導入に期待する効果として『顧客エンゲージメントの向上』は58%に上り、グローバルの48%を大きく上回るものでした。そして、顧客とのコミュニケーションをデザインする上では、『AIが“ひと”の業務を代替する』のではなく、『顧客対応を最適化するためにAIと“ひと”がコラボレーションする』という発想が必要となってくるでしょう>

今後、InsTechによってビジネスの幅はどう広がっていくのか———。保険業界におけるAI活用はまだまだ始まったばかりだ。