マーケティング業界に蔓延する「AIウォッシング」とは何か

無関係なのにAIという言葉を濫用

<AI(人工知能)は素晴らしい可能性を秘めていますが、残念なことに、ほとんどのベンダーは、まずはその需要や潜在的な用途、そして顧客にとってのビジネス的価値を見極めるのではなく、単にAIベースの製品をつくってマーケティングをするということに重点が置かれている>(「Gartner Says AI Technologies Will Be in Almost Every New Software Product by 2020」編集部訳)

アメリカのIT調査会社・Gartnerは2017年7月18日、2020年までのソフトウェアのAI搭載について予測したレポートを発表した。その中で、リサーチ担当の副社長Jim Hare氏は冒頭のように述べ、多くの企業はあまりにも無差別に“AI印”を自社製品に適用しすぎている、つまりなんでもかんでもAIと付けてマーケティングしすぎていると指摘している。そして、ガートナーはこうした状況を「AIウォッシング」と記した。

環境問題がクローズアップされ、環境配慮を謳うことで商品が売れた1990年代、実際にはエコでないのに、エコを前面に打ち出してマーケティングをする企業が相次いでいた。その際に誕生したのが、環境配慮を誇張して売り込む行為を指す「グリーンウォッシング」という言葉だ。AIウォッシングは、グリーン(エコ)の代わりにAIで商品を売り込もうという、誇張した宣伝行為を指している。

ガートナーは新技術の認知度や期待度がどのように変化しているかを示す「ハイプ曲線」(hype=「誇大宣伝」「過剰な期待」)を毎年、発表しているが、2016年版ではまさに「機能学習」がトップとなっていた。また、同社のサイト「gatner.com」においても、2016年1月時点では検索語順位100位にも入っていなかった「AI」というワードが、2017年5月には7位にまで浮上したといい、急激に注目度が上がったことがうかがえる。

いったいAIの定義とは何か

ビッグデータ関連のトレンドやソリューションの専門メディア「datanami」は、AIへの関心が急速に高まったことで、AIの用語の定義や、「機械学習」と「ディープラーニング」の違いなどについて混乱が起きており、一般の人たちが誤解していると以下のように指摘している。

<AIは、ビッグデータや、高度な分析技術や手法など、いろいろな意味を示す言葉となった。それによって、以前からAIに関わってきた人たちは困惑している。彼らは、AIとはロボットや人間のような認知機能を持ったプログラムを指すものだと考えてきたのだ。今、こうした伝統的なAIは「真のAI」と呼んで区別されている>(「Now Trending: AI Washing」2017年7月26日付)

また、イギリスの大手テクノロジー企業であるSageグループでAIチームを率いる役員のKriti Sharma氏は、アメリカのニュースサイト「Axios」のインタビューに対し、「多くの企業が今、人間よりもAIを使って問題解決をしようとしている。しかし、 そうした企業がAIと呼んでいるのは大抵、ただの自動化である」(「Report: Many firms are “AI washing” claims of intelligent products」2017年7月19日付)と指摘している。

「datanami」は、このようなAIの“大規模な採用”が、どのようなところで落ち着き、いつまで続くのかについては「分からない」と述べた。ただ、いずれにしても、いずれは「一体AIをどのように使うのか?」という問題に収束していくだろうと予想している。

AIウォッシングを克服するためには?

こうして、企業にとってAIの導入がトレンドとなった今、2020年までにAIが大手企業の投資優先技術の上位5つの中に入るだろうとガートナーは推測する。その際、考慮すべき点として、以下の3つを挙げている(前掲ガートナーレポートより引用)。

①AI製品の差別化が明確に行われていないことが混乱を招き、購入の決定を遅らせる(=AIウォッシングの結果、利用者にその違いが伝わりにくく、結局購買にも繋がらない)

②多くの利用者のニーズに対しては、既に実績のある、それほど複雑ではない機械学習で対応できてしまう

③企業には、AIソリューションを評価、構築、展開するスキルが不足している

アメリカのニュースサイト「Women in Comms」のディレクター・Sarah Thomas氏は、2020年までにほぼすべての新しいソフトウェア製品とサービスにAIが採用される可能性があると言われているものの、現時点では、既存のシステムを“AI”と称して混乱を招いているだけだと指摘している(IT Businessedge「The Inevitable Rise of AI Washing」2017年7月28日付)。最大限の利益を引き出すためには、まずは1歩戻って、利用者と開発者双方ともAIの本当の意味を見直すべきだろうと強調した。

今、製品にAI機能を搭載したり、アプリケーションやプラットフォームを提供したりしているベンダーはすでに1000社にものぼると見られている。それだけでも利用者は選択に迷うだろう。一方でガートナーは、ベンダーに対しても、AIを使うメリットが定量的に分かる事例が重要だと助言している。そうすることで利用者の信頼を獲得することが大切だというのが、①のポイントだ。

また、②については、最先端の技術に目を奪われて、すぐに有効な実証済みの技術がかすんでしまうという指摘だ。利用する企業にとっては、必要以上に高度な技術ばかりに気を取られて、無駄な出費をするリスクになり得る。

そして③については、ガートナーが企業を対象に行ったAI開発戦略調査で、半数以上がAI活用に必要な人材とスキルが足らないと回答していることから、企業もその差別化に悩んでいると見ている。

<ソフトウェアベンダーは、最先端の技術だけでなく、ビジネス上の問題を解決するソリューション提供に集中すべきだ。そして自社のAIソリューションが、どのように顧客企業のスキル不足に対処するのか、自前のカスタムAIソリューションを構築する以上の価値を提供できるのか、を強調すべきだ>(前掲ガートナーレポートより引用)

ハーレ氏はこのように、顧客に対してはカスタムソリューションではなく、パッケージ型のAIソリューションを勧めるようソフトウェアベンダーに助言している。

イギリスで公開された論文の中で、ハーレ氏は、ハイプ曲線によると、「誇大宣伝期」の後には「幻滅期」がやってくるため、ウォッシングと化したものは常に自滅してきたと書いている。しかしながら、シアトルのテクノロジーコンサルティング会社POPのCTO、Jake Benne氏も自身の体験をもとに指摘している通り、AIユーザーと非ユーザーではビジネスにおける効率のギャップは大きく、AIがもたらす利益が莫大であることもまた事実。今後自滅しないためにも、AIウォッシングの正常化に期待したい。