日本の水産業を救う!? AIと「データ漁業・養殖」の可能性

世界一の“魚食”を支える日本の水産業

東京大学ものづくり経営研究センターの発表資料「水産業の現状と課題」によれば、「人口 100 万人以上の国において、日本は年間1人当たり魚介類の供給量は56.9 kgで世界一」となっている。日本の食を支え続けてきた水産業は、国の基幹産業のひとつだ。

にもかかわらず、日本の水産業は長期的な低迷を余儀なくされている。漁業生産量は1984年の1282 万tをピークに下降の一途を辿り、近年ではピーク時の半分以下にまで落ち込んでいるという統計がある。

抱えている課題もさまざまだ。例えば、中国および近隣国における水産業の勃興、水産資源の減少、就業人口の減少と高齢化、魚の市場価格を決める流通機構の変化などがある。農業においても就業者数の減少は問題となっているが、そのスピードは漁業においてより一層厳しいそうだ。なお、前述の「水産業の現状と課題」には、以下のような指摘もあった。

<多くの漁港・漁協を見て回って感じるのは扱う魚の量に比べて人間の数が多過ぎる感が否めないことである。人が多く関われば人件費がかさむ訳だから、漁に似合った漁協・魚市場の体制に組み直す必要がある。また漁協の幹部の高齢化も気になるところである。将来的には漁協が水産業のあり方を考える集団に改組して漁業者の思考革新をリードする役割が求められると考える>(前掲資料「水産業の現状と課題」より引用)

つまり、課題が先行する中で現状を変えていくためには、次世代的な組織や経営体制を確立していく必要があるという指摘ともとれる。水産業のイノベーションについては多様な解がありうるが、ここではAIを使って漁業の自動化および効率化を達成していこうという取り組みについて紹介していきたい。

漁場を予測するAIシステムの開発始まる

2017年6月、公立はこだて未来大学、北海道大学大学院、室蘭工業大学、日立製作所は共同で、AIを採用した「漁業システム」の開発を開始するとした。研究チームが開発しようとしているのは、「漁場・漁獲を予測するシステム」だ。公立はこだて大学の松原仁教授は、「朝日新聞」の取材に対して、漁業へのAI応用について次のように見通しを述べている。

<漁業では、人工知能で海流や温度などを分析して漁の適地を推測できれば、効率的に魚が捕れるようになります。定置網漁でも、適切な量のサケなどが入った網の揚げ時を知らせるシステムができるでしょう>(電子版2017年2月4日付)

漁業ではこれまで主に、漁師の経験に基づいて漁を行う場所を決めていた。しかし、その成果は実際に網を挙げるまでは知ることができなかった。つまり、現場で働く「漁師の勘」が、ビジネスの成否を左右していたと言える。研究チームの狙いは、その勘をAIシステムに代替させること。現在、肥料や水撒きなどの量をAIで算出しようという「データ農業」の動きがあるが、こちらは「データ漁業」の実現に端緒をひらく構想と言えそうだ。

漁獲量の予測が可能になれば、適切な人員配置や人件費の削減も可能となるだろう。また計画的な仕入れや、販売ルートの確保が前もって可能となるため、流通業者にとっても恩恵が大きいものとなるはずだ。

国際ルール順守にもAIシステムが活躍….「データ養殖」の兆候も登場

加えて、「漁場・漁獲を予測するシステム」は、マグロなどを誤って捕獲することを避け、水産資源を保護することにも役立つと期待されている。2017年8月には、日本における太平洋クロマグロの小型魚の漁獲量が国際合意の上限4007tを突破し、4340.5tに達した。このままでは国際的な批判を浴びかねない状況だ。

上限を超えてしまった理由はいくつかあるが、そのひとつに他の魚を狙った定置網にクロマグロが混ざるケースが相次いだというものも大きかったそうだ。「漁場・漁獲を予測するシステム」が発展すれば、いずれ乱獲や漁業を巡る政治的ルールに対する対応も容易になるかもしれない。なお、「漁場・漁獲を予測するシステム」については、京都大学、海洋研究開発機構なども青森・八戸港と協力して実験を開始している。

一方でNTTドコモ、IBMは、マグロ養殖事業をてがける双日ツナファーム鷹島と協力。AIやIoT分析プラットフォームを使用した「データ養殖」の実証実験を開始している。これは、マグロの成長度や運動量を把握し、飼料コストの低減、給餌タイミングの合理化、飼育期間の短縮など「水産業の高度化」を実現しようという試みだ。採用されているのはドコモのAI「Corevo」だ。これはIBMのIoT分析プラットフォームから、養殖場、気象・海流、生産状況などのデータを受け取り、「空間状態」などを推定しフィードバックする役割を果たす。

ここで紹介した「データ漁業」や「データ養殖」の実験が、どこまで実用化されていくかはまだまだ未知数だ。とはいえ、経営の合理化や効率化、また自動化は、水産業にとって急務となっている。どのようなアイデアが実践&実用化されていくか見守っていきたい。