早期発見から寿命予測まで…AIの躍進で劇的に変化する「近未来医療」

人間は誰もが病気にかかるリスクを抱えながら生きている。厚生労働省の「平成25年人口動態統計」によれば、日本人の死亡原因で最も多いのは「がん」だ。以下、「心疾患(心臓)」「肺炎」「脳血管疾患(脳梗塞・脳出血など)」と続く。

がんで亡くなる人は多くなっているという印象を抱きがちだが、がんの死亡率が増加しているかを調べるときに用いる「ガン年齢調整死亡率」を見ると、1990年代後半から現在まで大幅に減少していることがわかる。もはやがんは“不治の病”ではなくなってきており、早期発見が重要なキーワードとなっている。

AIによってさらなる早期発見が可能に

国立がん研究センターとNECは2017年7月、人工知能(AI)技術を使った大腸内視鏡検査支援システムを開発したと発表した。これまで医師による内視鏡検査でのがんの見逃し率は20%以上とされていたが、同システムを使えば見逃し率は2%に抑えることができるという。ディープラーニング(深層学習)を活用して病変検出AIを開発し、国立がん研の持つ約5000例の内視鏡画像を学習させた結果だ。

例えば大腸がんはポリープから発生することが明らかになっており、内視鏡検査による見落としが格段に減ることで、がんに進む前段階で処置をとれると期待されている。2019年度に薬事承認に向けた臨床試験を始めるという。

人工知能が人の命を救ったケースも

一方、2016年には日本国内初となる「人工知能が人の命を救ったケース」も生まれている。東京大学医科学研究所が導入した2000万件の医学論文を学習した人工知能が、非常に特殊な白血病をわずか10分ほどで突き止め、治療法を変えるように提案。60代女性患者の命が救われたのだ。

同研究所の附属病院はIBMなどと協同で、人工知能「ワトソン」にがん研究の論文を学習させ、診断に役立てる臨床研究を進めていた。『NHK「かぶん」ブログ』(2016年8月4日付)によれば、研究を行った東京大学医科学研究所の宮野悟教授は「一人の医師がすべての膨大な医療情報を把握するには限界があり、情報を蓄積して自ら学習する人工知能の活用は医療の世界を変える可能性を秘めている」と話したという。

また慶應義塾大学医学部では、うつ病や認知症など精神科の病気の診断をAIが支援するという研究が進められている。AIを活用して診察時の患者の表情やしぐさ、声を定量的に分析し、うつ病の重症度を客観的に評価する取り組みだ。

これまで人間の医師には難しかった診察をAIが支援することで、早期発見や高精度の診断が実現できる可能性が高まってきた。皮膚病診断にいたっては「実現間近」との報道もあった(「日本経済新聞」電子版2017年6月30日付)。

海外では「寿命予測」の研究が進む

医療におけるAI導入の期待はさらに高い。それはずばり「未来予測」だ。

2017年に入ってイギリスの医療研究機関MRC(Medical Research Council)ロンドン医学研究所(LMS)のDeclan O’Regan氏は、AIによって心不全患者の寿命予測の精度が高まったと発表。心不全患者の1年後の生存率の予測精度は、医師が60%であるのに対して、AIは80%となっている。

また6月にはオーストラリアのアデレード大学のAI研究者と医学部が協力して、余命予測システムを開発したという。患者の胸部のCT検査の画像を用いてディープラーニングさせたそうで、わずか48人分のデータだが5年生存率の予測精度は69%と低くない。

AIが寿命を予測することで死亡リスクの高い患者を特定でき、彼らに集中治療を施すことも可能だろう。その意味で、寿命予測の意義は大きい。

「遺伝子解析」も重要なキーワードになりそうだ。アンチエイジング、遺伝病の解析、新薬の開発など応用先は多岐に渡る。AIが膨大なデータのなかから短時間で遺伝子の変異を発見し、適切な薬の選定などが期待できるだろう。

病気のない未来を予言する専門家も

シンギュラリティ(技術的特異点)を提唱したレイ・カールワイル氏は、次の寿命レベルのジャンプは2035年頃に来ると予測している。

<発達した人工知能は、人間の免疫力を強化することができます。今のところスマートフォンのようなデバイス(機器)は、主にコミュニケーション手段として使われています。しかし、2030年までには、これらのコンピュータ・デバイスが血球ほどの大きさになる。血球サイズのロボットは、血液中に入り免疫力を拡張してくれる。結果として、人間の寿命は延びるというわけです>(「ヤフーニュース特集」2017年4月3日付「AIが人類を超える意味――カーツワイルの予言」より引用)

誰もが健康な毎日を送り、死ぬ前日まで病気にならない――AIが医療と融合することで、そんな未来が現実になるのかもしれない。