ロボット・ヘルスケアを主導し「AI大国」目指す中国

<2005年以降、世界の主要国で出願された人工知能(AI)関連の特許は6万件を超える。特に2010年から2014年にかけて出願数は7割も増えた>

「日本経済新聞」(電子版2017年2月1日付)は上記のような調査レポートを発表した。レポートは続けてコンサルティング企業・アスタミューゼの資料を引用し、「2014年に出願されたAI関連の特許数の合計は8205件。これは10年の4792件より約7割増と大きな伸びだ」と詳細を指摘した。

中国で急増するAI特許申請数

AIに関する世界的な注目度や開発動向の加速もさることながら、同レポートで注視すべきは中国の動きだ。2005~2009年の間、米国から出願された特許数は1万2147件。対して2010~2014年では1万5317件となっている。伸び率にすると約1.26倍の計算になる。一方、中国では2005~2009年に2934件、2010~2014年に8410件となっており、伸び率換算では約2.9倍となった。そのような調査結果を前提に、同レポートは、数ベースでは米国がまだ圧倒的ながらも、中国の勢いは見逃せないと結論付けた。

実際、このレポートの結論を裏付ける証言もある。AI研究で著名な日本のある学会関係者は、AI Lab編集部の取材に答え、次のように話している。

「AI研究という観点から見れば、もはやアメリカを追い越している。関連の学会はどこも中国勢が最大となっており、2017年8月に開催された『IJCAI2017』という国際AIカンファレンスでは、参加人数・採択論文数ともに中国がトップになった。2015年まではアメリカがトップでした」

ロボットのスマート化を目指し加速する中国AI開発

それでは現在、中国ではどのようにAI活用が進もうとしているのか。中国現地でテクノロジーの発展動向をウォッチするコンサルタントのひとりは、次のように話している。

「中国国内の資料を見ると、特許の技術的内訳として最も多いは『ロボット』で全体の約4割を占めます。次いで『ニューラルネットワーク』が約2割。その後、『画像認識』、『音声認識』、『コンピュータービジョン』の順で続いています。中国では賃金上昇による人手不足が表面化してきており、それを自動化で補おうという流れがあります。すでに、世界一の産業用ロボット市場になって久しいですし、今後、製造業と人工知能などハイテク産業を繋げたいと思っているはずです。そのような流れが、ロボット分野におけるAI研究を加速させているのでしょう」

また、中国ではヘルスケア分野でもAI活用が大いに期待されているという。前出のコンサルタント関係者は続ける。

「中国では国民の健康問題をいかに解決するかについて、いくつかの指針が発表されています。代表的なものに『小康社会』『健康中国2030』などがあります。その骨子のひとつは、高齢化が進むなかで、『予防』という課題を克服するサービス開発を支援していくというものです」

この「ヘルスケア=予防医療」という文脈で注目を集めるのが「ビックデータ」、そしてAIだ。中国政府は、2015~2016年にわたり数回、「人民の健康情報のデータ化促進」に言及しているが、政府のバックアップを背に受け、有力なヘルスケア×AI企業が続々と登場し始めている。すでに企業評価額が1100億円を超えたゲノム解析企業・iCarbonX(碳雲智能/本社・深セン市)などがその一例だ。

「現在、中国のAI研究・開発の拠点は北京です。しかし、iCarbonXは深セン市を拠点に生まれた医療ベンチャー。同市はウェアラブル端末などハードウェアを安価かつ素早く作れる環境があります。今後、深センを中心としたヘルスケア×AI企業の登場は注視すべきかもしれません」(前出のコンサルタント)

中国では、産業用ロボット、ヘルスケア分野以外にも、AI研究・開発を加速させる要因がある。「サービスロボット」分野だ。急激な発展を遂げた中国では、高齢化や少子化の影響から、介護ロボット、見守りロボット、コミュニケーションロボットなどへの需要が爆発的に高まっているという。それら需要を見越したビジネス的な投資が進んでおり、AIへの注力も並行して高まっている。

なお中国におけるAIの急速な発展という現状については懸念すべき点もある。それは、AI開発における「ルール作り」や「倫理観」があまり考慮されていないという点だ。

「例えばヘルスケア分野の新しいサービスでは、個人のカルテや診断画像、果てはDNA情報までビッグデータ化されて運用されていますが、個人情報を保護する法律やルールが未整備です。中国では個人情報などビックデータのリスク管理について、国民がそれほど敏感ではない。むしろ、新しいサービスを生み出し、いかに金儲けをするか、また生活がいかに便利になるかに社会の視線が向かっている。まずは実行してみて問題が起これば後で修正すればいいという考え方なのです」(同)

前出の学会関係者も同様の意見で、「学会に出席する中国人研究者は多くなる一方ですが、例えば『自律AIに潜む倫理的問題』を討論するようなパネルディスカッションには参加者が少ないのです。まずは製品なりサービスを作ってしまおうという考え方なんでしょう」と言う。

AI分野で世界を凌駕しつつある中国だが、問題点があることも忘れてはいけない。日本の産業界はこうした動きにどう対応すればいいのか。まずは積極的な分析や情報収集が必要になってきそうだ。