自動運転だけではない[人工知能]がもたらす交通システムの未来

日本を訪れる外国人観光客が2017年9月時点で2000万人を突破したという(日本政府観光局)。過去最高を記録した2016年より45日も早く、今後も訪日客は増えていく見込みだ。一方で日本では少子高齢化や人口減少にともない、交通機関の運行人員(ドライバー等)「の確保が困難になっており、「おもてなし」をする上で、テクノロジーを用いた信頼できる交通システムをいかに訪日外国人に提供できるかが鍵となっている。

需要は増えるが、担い手は減る――つまり日本の交通事情には、需要と供給のアンマッチがあるわけだ。そんな交通の課題を人工知能(AI)で解決しようという動きが本格化している。

ルートと時間が最適化されたAI運行バス

代表的なのは、NTTドコモと未来シェアの試みだ。両社はドコモの「リアルタイム移動予測」(タクシーの利用需要をリアルタイムに予測システム)と、未来シェアの「Smart Access Vehicle」(SAV、オンデマンド型相乗り移動サービス)とを連携させて、必要に応じて最適な時間とルートを走行するモビリティサービスプラットフォームの実現を図っている。

そんななか2017年の9~10月にかけて、寄港地における消費拡大の可能性を調査するため、鳥取県境港市に寄港するクルーズ船の外国人観光客に対してSAVの提供を開始した。ドコモと未来シェアは将来的に、AIによるリアルタイム処理の活用によって需要に応じ、最適な時間に、最適なルートで、最適な運行を行う「AI運行バス」の提供を目指している。

いつでもどこでも乗り降りできるバスというだけに、もし実現すれば、タクシーや乗用車を利用する人は大幅に減るだろう。そうなれば都市や観光地で発生する渋滞の解決にもつながりそうだ。

AIが車や歩行者の渋滞を解消

現実に、AIには渋滞の解消も期待されている。国土交通省は2017年夏に、ICTやAIなどのテクノロジーを活用して、交通渋滞の解消を目指す実験・実装に取り組む「観光交通イノベーション地域」を公募した。これから研究・開発が進んでいく日本に先立って、海外ではすでにAIを使った渋滞に対するさまざまな取り組みが始まっている。

例えば、「AI信号機」だ。米カーネギーメロン大学でロボット工学を研究するスティーブン・スミス教授が自身のベンチャー企業で開発した、信号機管理システムを見てみよう。

ニュースサイト『Wireless Wire News』(2016年10月27日付)の「「AI信号機」導入で交通渋滞を大幅緩和 -米ピッツバーグの実験」という記事によると、スミス教授の信号機システムの特徴は、信号機に取り付けたセンサー類やカメラから集まるデータをAIベースのアルゴリズムで処理し、最適な信号切り替えのタイミングを決定できることだという。

同記事によると、従来の信号システムは数年に一度の頻度しか切り替えないため、AI信号機が状況に応じてタイミングをその場で変えることができれば、より柔軟に交通渋滞に対応できると評価している。

ピッツバーグ市街で行った実験では、同システムを導入したことで自動車による移動時間が最大25%も短縮され、アイドリング時間も40%以上減少したという。スミス教授はアメリカにおける道路の交通渋滞が原因で生じる経済損失は年間1120億ドル(約12.4兆円)と講演で述べたことがあるが、その4分の1がAI信号機によって解消されるとなれば、効果はかなり大きい。

車の渋滞だけでなく、歩行者の渋滞にもAIは新たな可能性を提供している。

シンガポール科学技術研究庁とシンガポールマネジメント大学、富士通は2016年8月、約6万人が集まったスタジアムイベントに合わせて、隣接するショッピングモールでAIを活用した混雑緩和を目指す実証実験を行っている。

まず、イベント参加者の一部にスマートフォン用アプリを事前配布して、交通機関の状況、個人の嗜好性などのデータをAIが分析・学習・予測する。AIで得られた結果をもとに、アプリが交通手段を勧めたり、ショッピングモールへ誘導したりして、帰宅手段や時刻の分散化を行った。

上述の実証実験を報じた「FUJISU JOURNAL」(2016年10月14日付)によると、「AIで人々の行動を誘導し、混雑を緩和する世界初の試みが実用化に向けて進んでいる」そうだ。

自動運転はすでに実用段階まで進んだ

交通に関する分野でもAIが活躍しているわけだが、やはり最も象徴的なものは乗用車の自動運転だろう。その実用化は技術革新だけでなく、自動車ビジネスを根底から覆すほどのインパクトを与えるともいわれている。

世界中が注目するなか、アウディは世界で初めて「レベル3」の自動運転機能を搭載した新型「A8」を発売する。レベル3とは「条件付き自動運転」のことで、一定条件下のもとで自動運転を行うレベルだ。「部分運転自動化」を指すレベル2とは明らかな差がある。

A8は中央分離帯のある同一車線を60km以下で走るときに、運転操作を引き受けてくれるという。「AIボタン」を押すことでレベル3の機能が作動し、作動中は発進と加減速、操舵が自動制御される。ハンドルから手を離して、テレビを観てもいいというのだから驚きだ。

アウディの本国・ドイツでは、2017年5月に道路交通法の改正案が議会で可決しており、自動化した車両の運転者がハンドルから手を離して他の作業をすることを法律的に認めている。またアメリカでも9月に、米国議会下院で「自動運転法」と呼ばれる法案が通った。車の完全自動運転は、すでに未来の話ではなくなっているのだ。

AIが身近にある未来は、自動車やバスをはじめとする交通分野から切り拓かれるかもしれない。