「ビックデータ万能神話」への疑問…活用状況から見えた現実と課題

国内のビックデータ活用状況と利用拡大を阻む要因

「ビックデータ」というキーワードが注目を浴びはじめて久しい。ただ企業が本当にビックデータを有効的に利活用できているかと問われれば、そう言い切ることは難しい。

IT専門調査会社IDC JAPANが2017年8月に公開した「国内企業のビッグデータ/アナリティクス成熟度調査」を見ると、国内企業のビックデータ活用事情が垣間見えてくる。同社は「従業員500人以上のBDA(ビックデータアナライシス)を推進する大規模企業に所属しており、企業のBDAの方針決定に影響力を持つ200人」(調査結果リリースより)に対してアンケートを行い、日本国内にある企業の、BDAへの取り組みについてその成熟度を分析したという。

なおIDCがビックデータ・アナリティクスの成熟度を調査するのは2016年に続き2度目だ。2017年も前年と同様に、独自の指標を用いて成熟度を5段階に分け、各企業がどの段階にいるか割合を調査している。その5段階区分は、以下のようになる。

■第1段階:個人依存
個人的な努力に依存。継続的な予算の裏付けのないPoC(Proof of Concept=概念実証)レベルの取り組み

■第2段階:限定的導入
プロジェクト単位の予算により部署レベルでのテクノロジー活用が行われる

■第3段階:標準基盤化
ビジネスユニット(戦略事業単位)での予算と組織による継続的活用体制の整備

■第4段階:定量的管理
部門をまたがるBDA戦略の整備がなされパフォーマンスのモニタリングとデータ品質管理が行われる

■第5段階:継続的革新
全社的に戦略、データ管理、予算、人員整理がなされ、BDAプロセスの継続的な改善によるビジネス価値への貢献が実現

IDCは前年の調査に比べ、第2段階から第3段階に移行した企業が増えたと分析。調査対象企業のうち、第3段階にいたった企業が53.3%(前年比20.7%増)だったとして評価した。一方で、第4段階以上の企業がほとんど増えていない(前年比1%増、第5段階は同比1.8%減)として、課題として提起してもいる。加えてビックデータ活用の拡大を阻む要素として「データサイエンティストなど人材不足」「組織間の壁」「不十分な予算」「システム・データの断絶」などを挙げている。

このレポートの内容を噛み砕いて言えば、「ビックデータの重要性が意識され環境整備は着々と進めているもの、実際にそれを価値に転換できている国内企業はほとんどない」とも理解できないだろうか。

なおWEBメディア「gihyo」では、欧米におけるビックデータ施策の成功例がいくつか明示されていたので、参考までに抜粋したい。

<AMEXやT-MOBILEはユーザーの行動から解約の予測と防止に成功しています。詳細な顧客データをオフラインのビジネスに活かせていないWAL-MARTも、ユーザーの検索行動の予測からECの売上を数千億円単位で伸ばしています。UPSは配送ルートの最適化から1,500万リットルの燃料を削減。DELTAは乗客自身が荷物のトラッキングを行えるサービスを提供し、ロイヤルティの向上に成功しています。P&Gはソーシャルメディアや購買データなどから新商品開発のための市場トレンド予測に成功していると言います>(「ビッグデータが利益ではなく損失につながる理由」2016年6月28日付)

欧米の実情を見ると、一口にビックデータと言っても、その活用事例は多種多様だということがわかってくる。日本では2017年5月に「個人情報保護法」が改正され、“ビックデータ元年“になると言われているが、今後、国内企業がビックデータ施策に価値を見出すためにはまず、その活用の形を整理・類型化していく必要がありそうだ。

ビックデータの価値は「売上拡大」よりも「損失縮小」

国立情報研究所の佐藤一郎氏が2014年に公表した「ビックデータの理想と現実」というレポートによれば、ビックデータ施策に関する興味深い指摘がある。それは、活用事例の種類を「売上拡大」と「損失縮小」という手法に区分すること。また、前者より後者の方がより有用なのではないかというものだ。

佐藤氏が言う「売上拡大手法」とは、例えば、ECサイトの推薦機能向上などにビックデータを活用することを指すが、その場合、データ分析結果を適用したからといって必ずしも収益拡大に繋がるとは限らないとしている。というのも、購買・消費という側面においては、データすなわちユーザーの“本心”とは限らないからだ。一方、「損失縮小手法」の場合は、例えば「クレジットカードの不正利用監視」のためのビッグデータ活用は、確実かつ効果的であるという。佐藤氏はビックデータの特徴について、「儲けにつながるデータ特性は未知、損につながるデータ特性は既知」と端的にしの性格を表現する。

なお同レポートでは、損失縮小手法としてのビックデータ応用例について「ITサービスから退会しそうなユーザーの発見」や「医療データによる患者の病気の兆候把握」などを挙げている。それ以外にも、ビックデータを活用した「コスト削減」も、損失縮小手法の範疇に入るのではないだろうか。

価値の源泉であるデータとの正しい向き合い方

ビックデータという言葉は、いまやマーケティング用語や流行語として定着しつつある。しかし、データが多ければ多いほど価値があるという先入観は取り払っていく必要があるだろう。「どんなデータをどれくらい集め、どんな手法で価値に転換するか」、「ビックデータでどんな課題・問題点を解決するか」また「データ施策を有効にする予算および組織体制をどう組むか」は、各企業の実情と状況に合わせて精査されるべき問題かもしれない。

また最近では、ビックデータの部分的集合、もしくは量が少ない「スモールデータ」の価値を掘り起こすべきだという議論も盛んになりはじめている。スモールデータの定義はまだはっきりと定まっていないが、①収集・分析・活用方法を工夫することで有用な価値を引き出せる相対的に小さなデータ、②組織に属する人間がすぐに扱うことができるデータなどといった特徴がある。

いずれの形にせよ、デジタル化されたデータが企業の価値を高める大きな可能性を秘めていることだけは間違いない。どのデータに着目し、いかにうまくブラッシュアップしていくか。経験およびノウハウの蓄積が待たれている。