働き方改革とAI…肝となる「インサイト=気づき」

働き改革のメイン課題は「労働時間短縮」なのか

「プレミアムフライデー」キャンペーンや「残業代ゼロ法案」など、仕事に関するトレンドや関連法の改正が相次ぐなか、「働き方改革」という言葉に注目が集まっている。

政府が目標とする働き方改革とは「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組み全体を差す。首相官邸が公開している「働き方改革実行計画」(2017年3月、働き方改革実現会議決定)という文書には、次のような文言がある。

<日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革である。『働き方』は『暮らし方』そのものであり、働き方改革は、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である。(中略)改革の目指すところは、働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにすることである。多様な働き方が可能な中において、自分の未来を自ら創っていくことができる社会を創る>

政府が働き方改革を提唱する背景には、労働力人口(生産年齢人口)の減少がある。日本の労働力人口は1990年代中盤にピークを迎え、その後、減少の一途を辿っている。国立社会保障・人口問題研究所が発表している「日本の将来推計人口」という資料によれば、2013年には約8000万人いるとされていた生産年齢人口は、2027年に7000万人、2051年には5000万人を下回る可能性がある。そのような現状に対処するため、人々のライフサイクルを再構築し、女性や高齢者などの労働参画を促進、出生率および生産性の向上を達成しようといのが、働き方改革の本来の趣旨となる。

ただ現在、各企業で進む働き方改革の内実を見てみると、「労働時間の短縮」に焦点が当てられていることがほとんどだ。HR総研が発行しているレポート「『働き方改革』への取り組み実態調査」によれば、働き方改革を実行していると答えた企業が取り組んだ課題のうち、もっとも多かったのは「労働時間の短縮(ノー残業デー、朝型勤務、深夜残業禁止など)」(81%)だった。なお2位は「休暇の取得推進」で68%。こちらも、本質的には「いかに勤務時間を減らせるか」という点に焦点が定まっているように見える。

働き方改革の中身が、単なる労働時間の短縮、言い換えれば、残業や時間外労働の削減に集中していることについては、専門家や識者から批判もある。「労働時間の短縮は、あくまで働き方改革の一部であって、すべてではない」という指摘だ。とはいえ、高い生産性を維持しつつ、職場にいる時間を減らすという思考に慣れなければ、人々が生活に実質的な余裕を持ちつつ、新しいアクションを起こしていくことは不可能だろう。その意味で、現在企業が行っている取り組みは、大筋で正しいと言えるのではないだろうか。

労働時間短縮のためのAI利用パターン

では具体的に残業など労働時間を短縮しつつ、生産性を高めるためにはどうすればよいだろうか。まずその第一歩としては考えられるのは、社員や組織が抱えているムダな作業を“見える化”することだろう。そのデータの可視化において、人工知能(AI)が大きな役割を果たすと期待されている。

すでに10年以上にわたって働き方改革を進めてきたマイクロソフトでは、現在、Office 365に搭載された「MyAnalytics」というツールで社員・組織の生産性向上を図っている。同ツールはOffice 365で作成したファイルおよび操作履歴などのビックデータをクラウドに集め、機械学習で分析。「時間の使い方」「よく一緒に仕事をする同僚」「会議時間」や「メール時間」「残業時間」「フォーカス時間」などを可視化する。

社員・組織の動きが可視化できれば、ムダを排除することも可能になる。一例として、日本マイクロソフトのとある部門では、MyAnalytics利用後1カ月で、会議時間を27%も削減することに成功したという。

AIを使った業務の見える化は、人間に「インサイト=気づき」を与えるという用途に分類できるかもしれない。言い換えれば、人間の職種でいうところの経営コンサルタントのように、具体的なデータを提示することで社員・組織の変化を促すというものだ。

労働時間の短縮という文脈で見たときに、AIをより直接的に使っていく方法もある。例えば、自然言語処理技術や画像解析技術を使って、それまで人間がやるしかなかった作業を自動化するというものだ。

リクルートでは、AIによるアタック原稿(クライアントへの提案時に営業マンが渡す仮原稿)の作成・校閲、類似画像のレコメンドなどを自動化している。ともに、それまで人力で行ってきた作業をAIで代替し、作業の効率化を達成するための施策だ。なお、各企業に大量に生まれる紙データ(アナログデータ)を、効率的にデジタルデータに変換できるインテリジェントOCR(光学的文字認識)も、労働時間短縮に直接的に資するAIといえる。

今後、AIが働き方改革を推し進める原動力になるためには、大きくふたつの課題があるかもしれない。ひとつは、中小企業でも簡単に導入できるAIサービスが登場すること。そして、もうひとつが「新たな仕事を発掘できるAI」の登場だ。

現在、労働時間の短縮など働き方改革に注力できるのは、一部の余裕のある大企業だ。しかし、真に残業などの問題が解決されるべきは、人も時間も足りていない中小企業であることは言うまでもない。

後者で言えば、効率化や自動化が進めば進むほど、人間そのものの仕事が減ってしまうという逆説的な状況にもなりかねない。企業経営側が、自動化に人件費削減というメリットを求めることは当然だからだ。日本経済、もしくは各企業の利益のパイを増やための「インサイト」を見つける用途に、AIが使われていくことが必要になってきそうだ。