AIで住民の利便性が向上するか…地方自治体の新しい試み

自治体と企業による実証実験が花盛り

AI(人工知能)の活用が民間企業に広がる中、地方自治体でも本格導入に向けての動きが活発化してきている。三菱総合研究所が2016年9月に約1カ月間、川崎市、掛川市と協力して「AIによる住民問合せ対応サービス」の実証実験を行ったほか、2017年2月には千葉市がAIを利用した道路管理システムの実験を実施した。さらに、さいたま市ではAIによる「保育施設の割り振り」を決める実験を始め、大阪市では2018年3月より戸籍関連業務でAIを職員支援に活用する予定だ。

振り返ってみれば、2017年は「自治体のAI元年」だったかもしれない。では、具体的にどうAIを活用しているのか、いくつかの例を見ていこう。

2017年8月、横浜市資源循環局がウェブサイトで公開しているチャットボット「イーオのごみ分別案内」で「旦那」の捨て方を質問した人に対し、AIの回答が「的確すぎる」と話題になったことを記憶している人は多いだろう。

この「チャットボット」とは、NTTドコモが開発した「Repl-AI(レプルエーアイ)」という技術を活用したもので、同年3月より横浜市資源循環局と共に実証実験を行ってきた。捨てたいごみの名前を入力すると、その捨て方をシステムのマスコットである「イーオ」が回答してくれる。

ここに捨てたい“ごみ”として「旦那」と冗談で書き込んだ人に対するイーオの回答は、「本当に‼ 『人間は判断力の欠如によって結婚し、忍耐力の欠如によって離婚し、記憶力の欠如によって再婚する』ってアルマン・サラクルーは言っていたよ。忍耐力を鍛えてみたら、どうかな」と、実に気の利いた、秀逸なものだった。

ほかにも「結婚」と入力すると、「『結婚は多くの苦悩を生むが、独身は何の喜びも生まない。』ってサミュエル・ジョンソンが言ってたよ。今日は寝て、明日もう一度考えてみようか」と回答するなど、市職員がひねりの効いた返しを考え、対応できるようになっている。

こうした住民問合わせ対応サービスについて、より幅広い内容に対応できるよう開発されたのが、冒頭でも紹介した三菱総合研究所による実証実験「AIによる住民問合せ対応サービス」だ。住民が知りたい情報をすみやかに提供することを目的とし、自治体のウェブサイトをアスコエパートナーズの「ユニバーサルメニュー」を用いて標準化し、これをもとにFAQデータベースを作成。音声認識技術に定評のあるイナゴの自然言語解析可能なAIによる対話エンジンを用いて、利用者にサービスを提供した。

これによって、24時間待たずに利用できることが評価され、三菱総合研究所はサービスの本格的な提供に向けて検討を進めており、2017年7月には「行政情報標準化・AI活用研究会」という組織も立ち上げている。

30人で50時間かかった作業が数秒で終了

そんな中、さいたま市で行われたのはAIによる「保育施設の割りふり」を決める実験だ。さいたま市では、毎年、保育施設への入所を希望する子どもたちが8000人近くに上り、入所できる子どもと300を超える保育施設への割りふりを決めるのに困難を要していた。

「祖父母が同居しているか」「母親の勤務時間は」「世帯の収入は」など、さまざまな条件を突き合わせた上、「きょうだいで同じ施設にしたい」とか「通勤経路にある施設がよい」といった希望も考慮して、入所できる子どもや施設の割りふりを決めなければいけない。その作業量は膨大で、これまで30人の職員が50時間かけて行ってきたという。

ところが、これを富士通研究所が開発したAIで行ってみたところ、わずか数秒で終了。結果は、人間が手作業で行った割りふりとほぼ同じだったという。NHKの取材に対し、さいたま市の担当職員は、「長い時間をかけて行っていた作業が数秒でできることに驚いた。ただ、AIの判断だけで決めてしまっていいのか不安は残るので、最終的に人が確認することは続けないといけないと思う。性能に信頼がおけるようになったら、本格的に導入を検討したい」(「NHK NEWS WEB」2017年10月18日付 )と回答しており、富士通は2017年度中にもこのシステムを実用化し、同じ問題を抱える自治体に売り込んでいく予定だ。

そして、こうした“作業効率”を向上させるためにAIを導入する動きとして、大阪市は2017年の秋より戸籍関連業務の実証実験を行っている。

養子縁組や国際結婚など、戸籍に関する事務は現在、区役所の担当者が民法や戸籍法などの関係法令を膨大な書籍から個別のケースに合わせて調べ、場合によっては法務省に問い合わせている。戸籍に関するこうした審査が必要な申請があった際に、AIが回答を提示する「職員の知恵袋」を活用していこうという試みだ。職員が端末にキーワードを入力すると、AIが法律や過去の判断例などから適切な回答をはじき出す。

同市は、2018年春から浪速区と東淀川区で試験的に導入することを目標としており、これによって市民の待ち時間も短縮できると期待を寄せている。

自治体悩ますインフラ点検でもAI活用

さらに面白い試みもある。千葉市は東京大生産技術研究所との共同研究で、道路の損傷具合を自動的に診断する「マイシティーレポート」というシステムの実証実験を行い、インフラ整備にAIを取り入れる動きもある。

公用車に取りつけたスマートフォンで道路を自動撮影し、共有サーバーに画像を転送、AIが道路状況を「損傷なし」「損傷はあるが、修繕は不要」「修繕が必要」の3つに分類し、修理の必要性を判断するという仕組みだ。

各自治体の職員がAIの判断が妥当かどうかチェックした上で、学習用サーバーにデータを蓄積し、システムの精度を高めるといい、職員による目視点検より効率が上がるほか、広い範囲の道路状況を把握できる利点も持つ。

この実証実験は、2019年3月まで続行予定。バブル期以前に建設され、老朽化した橋や道路などの公共インフラの点検やメンテナンスの問題は、日本じゅうの自治体が頭を悩ます問題だ。AIを利用した新しい点検・管理システムが広く実用化されれば、時間やコストが大幅に短縮されるだろう。

「行政情報標準化・AI活用研究会」を立ち上げた三菱総合研究所の村上文洋氏は、NHKの取材に対し、「AIが多くの人間の仕事を奪うのではといわれますが、人口減少で人手不足がより深刻化する中、AIができるものはAIに任せ、人は人でしかできないことをやっていく時代になるのではないか」(同「NHK NEWS WEB」)と答えており、より迅速で利便性の高い住民サービスを提供するために、AIがなくてはならないものになるであろうことを示唆している。

今年が「自治体のAI元年」となり、どこまで発展していくのか——期待は高まるばかりだ。