保険業界とAI――「インシュアテック」が変える業界の未来

保険業界を改革するインシュアテック

「インシュアテック(InsurTech)」という言葉が注目を浴びている。インシュアテックとは、保険(Insurance)と技術(Technology)のふたつの言葉をかけ合わせた新造語だ。IT、ビッグデータ、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)などの技術を活用することで、既存の保険業界にイノベーションを起こすサービス全般を指す。ウェブメディア「日経デジタルヘルス」は、次のように定義している。

<ICT(情報通信技術)をはじめとするテクノロジーを活用することで、保険サービスの効率や収益性を高めたり、革新的な保険サービスを生み出したりすること。(中略)テクノロジーを駆使して革新的な金融商品やサービスを生みだすFinTech(フィンテック)の保険業界版と言える。InsurTechに関わるさまざまな取り組みの中で、多くの保険会社がその柱の一つに位置付け始めたのが「保険×デジタルヘルス」の領域。スマートフォンやウエアラブル端末、ビッグデータや人工知能(AI)などを活用し、加入者の健康を支えるサービスを提供するような取り組みである。ここ1~2年で取り組みが本格化しており、中小から大手までがこぞって力を入れ始めた>(「デジタルヘルス用語」2017年10月30日付)

テクノロジーと保険サービスの融合は、ずいぶん前から存在していた。だが、ITの進歩のスピードともに最近ではその発展がめざましい。インシュアテックは今後、既存の保険業界のバリューチェーン(Value Chain)を突き崩し、より消費者を中心としたサービスプラットフォームを構築していく可能性が高いという見通しが、多くの専門家によって語られ始めている。

インシュアテックで起こる変化

では、インシュアテックが登場することにより、保険業界はどう変化するのだろうか。まずまっ先に変化するのが「商品開発」の領域だろう。AIによるビッグデータ分析技術が発展すれば、リスク算出手法が多様化される。結果、一人ひとりの顧客に適した商品開発が可能となる。

次いで、インシュアテックは保険商品の「流通チャンネルの拡大」にも資するはずだ。IT技術がより高度に発達すれば、O2Oチャンネル(Online to Offline channel)が強化される。今でもオンラインで加入できる保険は増えてきているが、もっと簡単に短時間で保険に入れる時代に突入するであろう。保険会社にとっても、新規顧客の獲得がより容易になることを意味する。

さらに、保険を引き受けの可否を判断する「アンダーライティング業務」にも変化が訪れるだろう。保険加入者の情報とビッグデータを融合してリスク予測に利用すれば、これまで人間のスタッフが行ってきたバックエンド業務を自動化・効率化することがより容易になる。つまり、企業にとってはコスト削減に繋げることができる。

その他にも、請求手続きの簡素化や保険金詐欺防止を含む「保険金の支払い管理」や、ソーシャルメディアの外部データを活用することで潜在的な顧客の加入を促すことができるようになるなど、「マーケティング・顧客管理」領域でもインシュアテックの発展のメリットは大きい。

世界で始まるインシュアテック導入の動き

2015年現在、全世界におけるインシュアテックへの投資規模は、約25億ドル(約2800億円)と推定されている。その中でも突出しているのが中国で、その投資規模は約10億ドル規模に達するという。

注目されている海外事例としては、個人に最適化されたヘルスケア・保険サービスを提供しているOscar(米国)、League(カナダ)、インターネット事業者や保険契約者との協業モデルで成長が著しい衆安保険(中国)、医療機関とのネットワークを構築し、中小企業にカスタマイズされた団体健康保険を提供しているCollective Health(米国)、保険商品を比較することで個人に最適化された商品を提供するPolicybazaar(インド)、Knip(スイス)などがある。

日本国内においても、インシュアテック導入の動きが増え始めている。なかでも特筆すべきは、業界大手・東京海上日動火災保険とITベンチャー・Warranteeが仕掛けた「Warrantee Now(ワランティ・ナウ)」だろう。同商品は、家電を対象とした1日単位で加入できる「オンデマンド保険」。Warranteeが持つ保証書データベースと連動しており、これまで課題となっていた「煩雑な手続き」なしに、簡単に「家電1日保険」に加入することができるサービスとなっている。

その他にも日本では、第一生命保険や楽天生命保険などが事業推進・開発組織を発足。新商品・サービス開発、申込み手順の効率化、バックエンド業務の効率化のために、インシュアテックの導入に注力しているという。

なお、矢野経済研究所が公表しているレポート「生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査」によれば、2016年度の国内インシュアテック市場規模は約460億円(売上高ベース)であり、2020年には1100億円規模にまで成長すると見込まれている。今後、インシュアテックは保険業界にどのような大きな変革をもたらすのか。来年以降の動きが見逃せなくなりそうだ。