絵画・音楽・小説…アート分野で価値を創造する人工知能

17世紀の名画家の“新作”を発表!?

「芸術」という言葉を辞書で調べると、「特定の材料・様式などによって美を追求・表現しようとする人間の活動」(デジタル大辞泉)とある。その説明通り、芸術は極めて人間的な活動といえるが、近年アート分野にまで人工知能(AI)の応用が始まっていることをご存知だろうか。

代表的な例は、米マイクロソフト社やオランダのデルフト工科大学、マウリッツハイス美術館などが共同で行ったプロジェクト「The Next Rembrandt」だ。同プロジェクトは、AIを使って17世紀のオランダ画家・レンブラントの“新作”を作るというもの。レンブラントが描いた364点の全作品を3Dスキャンしてデジタル化し、ピクセル単位で画像を分析。ディープラーニングのアルゴリズムを用いて、作品の特徴を分析したという。顔認証アルゴリズムを活用して、目や鼻、顔立ちのバランスなども考察したそうだ。

データに基づいてできあがったイメージは、油絵を用いて3Dプリントで出力され、作品となった。UVインクを13層も重ね、質感まで再現した立体的な作品に仕上がっている。完成品は1億4800万以上の画素と150GBのレンダリングされたデータが使用されたという。

AIが作り出したレンブラントの“新作”は、世界最大級の広告の祭典「カンヌライオンズ」(2016年)のサイバー部門とクリエイティブデータ部門でグランプリを獲得。クリエイティブデータ部門の審査委員長は「データという得体の知れない警戒されがちなものを、人間にとって美しく心地の良いものに変換した。クリエイティビティにとって道標となり得る作品だ」と評価している。

芸術分野ではまた、音楽でもAIが新たな風を巻き起こしている。

ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発したソフトウェア「Flow Machines」は、AIを活用して膨大な楽曲データベースから音楽のスタイルや技術を学習し、学習したスタイルを用いて自動的に作曲するという。2つのポップソングがyoutube上で公開されており、うち一曲『Daddy’s Car』は「ビートルズ風」に作った曲とのこと。作曲はFlow Machinesが担当し、曲のアレンジと作詞はフランス人作曲家が担当したということだが、新しい音楽分野の可能性を開く事例だろう。

音楽分野では、グーグルが行っているプロジェクト「Magenta」も見逃せない。機械学習を用いて優れたアートや音楽を生み出せるかどうかを試す同プロジェクトでは、AIが作ったピアノ曲が公開されている。最近は、音楽サービス「A.I. Duet」も発表。画面に表示される鍵盤でメロディーを奏でると、それに合わせたようなメロディーをAIが返してくる。AIとピアノでセッションができるというわけだ。Magentaは音楽の後には、画像や動画を創造できるかチャレンジしていくという。

AIが書いた小説を読める日も近い

日本国内にも興味深い事例がある。AIで小説を生成しようという試みだ。

公立はこだて未来大学の松原仁教授を中心にしたプロジェクトチームは、AIにショートショートを創作させることを目指している。AIにSF作家・星新一の作品を1000編以上覚えこませて分析し、3年がかりで「星新一らしい文章」を作り出すプログラムを開発したそうだ。「いつ」「どこで」など60ほどの設定を人間が与えると、AIが文章を自動で作り出す。そうして完成した作品「コンピュータが小説を書く日」は、ショートショート分野の新人賞である第3回星新一賞の1次審査を突破したというのだから驚く。松原教授が「今は人間8割、人工知能2割」と明かしているように道半ばだが、将来的には人間がまったく関わらないAI小説が生まれるかもしれない。

AIが作り出した絵画や音楽、小説を「芸術」と呼べるかというと、素直に頷けない人も多いだろう。「AIは創造性を持てるか」といった議論も見られるようになってきた。ただ、人間の創造性も結局のところ、「既存の要素」の「新しい組み合わせ」にすぎないという考え方もある。また音楽にしろ小説にしろ、他者の作った作品の影響なしに新しいものは生まれない。AI自体に創造性があるかどうかはともかく、AIを活用することで、これまで人間が思いつかなかった「新しい組み合わせ」が次々と生まれる可能性は広がるだろう。

いずれにしても、さまざまな芸術の分野にAIが応用されることで、大きなインパクトが生じていることだけは間違いない。