命を守り、企業を救う――AI気象予報最前線

AIを使った局地的な気象予報を提供

みなさんは天気予報をどんな時にチェックしているのだろうか。週末の旅行計画のため、翌日の服装を考えるため、多くの場合はごく個人的な事情かもしれない。しかし企業や政府にとって、気象予報の適中率(予報精度)の向上は国家事業や経済活動にかかわるだけに、大きな関心事になっているのだ。

例えば、気象予報がより正確になれば、農家は栽培と収穫の計画を立てやすくなるし、航空会社は飛行機を最大限に使用することが可能となる。また、2017年にアメリカで発生した大型ハリケーンのような数百万人規模の被害者を出す自然災害に対しても、政府や企業はより早急に対策をとることができるようになるはずだ。

そこで今、予報の精度を上げるためにもっとも期待されているのが、膨大な情報を瞬時に解析できるAIなのだ。

現在、宇宙空間には雲のパターン、風、気温などの豊富なデータを提供する気象予測用の天文衛星が1000以上あると言われている。さらに、地球上には数十万の政府機関や私的な気象観測所が存在し、常にリアルタイムのデータを収集している。今後は車やソーラーパネル、携帯電話、信号機、空調システムなどもまた、予報を改善するための情報源として利用されつつある。

こうした情報をAIによってできるだけ多く、早く解析できるようになることで、気象予報の精度も格段に上がるだろうというわけだ。では、具体的にどんな動きがあるのだろうか。

現在、気象予報に対するAIの導入について、最も多大な投資をしていると言われているのがIBMだろう。同社は2016年、weather.com、Weather Underground、The Weather Company(以下、TWC)、WSIといった気象関係の企業を次々と買収した。

そして、この合併の成果のひとつとして同年6月に発表されたのが、TWCのグローバルな予測モデルとIBMが開発したハイパーローカル気象予測(約300~2300平方メートルの局地的な範囲)を組み合わせた新しい気象予測モデル「Deep Thunder」だ。

Deep Thunderは従来の気象衛星やレーダーの情報に加え、同社のコグニティブ・システム「IBM Watson」に気象データを学習させることで、機械学習によって天気を当てようという新しいアプローチで、ビジネスクライアントそれぞれのニーズに合わせてカスタマイズされた1時間ごとの予報データを提供していく予定だという。輸送会社、公益事業会社、さらには小売業者への導入が期待されている。

日本IBMもまた、2017年3月に気象庁の定める気象予測業務の許可を取得し、本社内に気象予報センター(アジア・太平洋気象予報センター/APFC:Asia Pacific Forecast Center)を設立し、気象予報を開始すると発表した。同センターには自社の気象予報士が配置され、24時間365日、リアルタイムにアジア・太平洋地域の気象予報を行うという。本国に限らず、世界的な規模で気象予報の改善に取り組んでいく予定だ。

また、農業分野においては、多国籍バイオ化学メーカー・モンサントが専門的な気象予測システムの開発に力を入れている。同社は2013年、農業従事者たちに向けた地元の予報情報を提供していたClimate Corporationをわずか10億ドルで買収。続けて、予測と分析を強化するため、農業ソフトウェア会社・HydroBioを買収し、AIの機能学習を活用した農業専用の気象予報の精度の改善に努めてきた。衛星画像、土壌データ、地元の気象データを組み合わせて使用することで、農業従事者がいつ灌漑すべきかを検討し、余分な水資源を浪費することを防ぐ上、収穫量を上げることに貢献できるという。

一方、自然災害の対策にもAI気象予報が活用され始めた。アメリカの国立大気管理局(NOAA)の研究者グループは、AI技術を適用して環境を物理的に理解することで、大きな被害を招く砂嵐や竜巻、ハリケーンなどを予測する機能を大幅に向上させることが可能になることを発見した。なかでも、AIは雹についてはかなり正確な予測を提供できるという。雹は雨や雪と違って被害が大きく、自家用車への落下をはじめ、毎年数十億ドルの損害を引き起こしているのだ。事前の警報を改善できるだけでも、その損害の多くを回避できる可能性がある。

数十万人のユーザー報告をAIが分析

海外でこうしたさまざまな研究・開発が進められる中、日本ではどのような研究が行われているのか。日本では、膨大な気象データは気象庁や各国の気象機関が観測・収集し、民間の気象情報サービス会社に提供されている。その民間最大手がウェザーニューズだ。独自の観測インフラを構築してきた同社は、ビッグデータの解析、AIの活用といった面でも注目を集めてきた。

同社の役員はインタビューで「ウェザーニューズは74億人の情報交信台となることを目指し、双方向の気象コンテンツサービスを創造してきました。典型的な事例がゲリラ雷雨を予測する取り組みです」(「ダイヤモンドクォータリー」2016年12月16日付)と答えている。

同インタビューが行われた年は、地球温暖化、都心のヒートアイランド現象などが原因で、約7500回のゲリラ雷雨が全国で発生している。同役員は「ゲリラ雷雨の捕捉率は開始当初の2008年は68・7%でしたが、2015年は90%に高まり、予報するタイミングも発生の21分前から50分前へと、早期に警報を出せるようになりました」(前掲記事)と話している。

早期警報が出せる要因のひとつとなったのが、スマートフォンのアプリ「ウェザーニュースタッチ」の専用コミュニティ「ゲリラ雷雨防衛隊」だ。一般ユーザーからなる「ウェザーリポーター」から送られてくる雲の写真や雲の発達具合、進路などの報告をもとに、AIを応用した画像解析技術を活用。ゲリラ雷雨の予報精度と解析スピードを向上させてきた。

ウェザーニューズが独自につくりあげてきた観測インフラによって、1日当たり3000万件以上の気象データを取得すると同時に、気象観測器の支給などの特典を与え、ウェザーリポーターからのリポートも活用している。こちらは1日平均13万人、台風接近時などには25万人ものリポーターが参加するという。リポーターそれぞれが肌で感じた生の声を提供することで、より詳細で精度の高い予報を完成させているのだ。

ウェザーニューズのサービス提供は日本だけにとどまらず、アメリカ、ヨーロッパ、中国などで利用者、情報提供者が拡大している。2015年5月にはアメリカの気象情報会社で、世界140カ国の会員から気象データを収集する天気アプリ大手・Weathermobからアプリ事業を買収。同年7月には中国最大のソーシャル天気会社で、月間利用者約8000万人のアプリを運営する墨迹風雲(Moji)と提携するなど、その事業展開の場を国外にも広げている。

気象予報の精度がより上がれば、われわれの生活はもっと便利になり、企業活動にも良い影響を与えるだろう。その効果が実感できる日は、もうすぐそこに迫っている。