音楽・芸能界が目指すエンターテインメント×AIテクノロジー

テクノロジーをいち早く取り入れたエイベックス

今、世界のエンターテインメント業界・ショービズ界においてVRやAI(人工知能)技術など最新テクノロジーを取り入れる取り組みが進んでいる。観客をより魅了するため、またアーティストや興行のメッセージを効果的に届けるため、はたまた有能な人材を他に先駆けて発掘するため――これまで「人間=タレント」の魅力がビジネスの成否を左右してきたが、今後はそれに加え、テクノロジーをどう導入するかが鍵となりそうだ。

日本のエンターテインメント業界も例外ではない。特に業界最大手・エイベックスの動きはとても顕著だ。2014年頃からすでに、VRを使ったミュージックビデオ(倖田來未『Dance in The Rain』)を企画・制作するなど、先端テクノロジーの導入に常に積極的な姿勢を見せてきた。同社は2016年にテクノロジーに特化したCVC・エイベックス・ベンチャーズを設立。2017年4月には、VR、ブロックチェーン、ウェアラブルデバイスなどの技術&サービスを開発するスタートアップを集め、公開ピッチ(プレゼン大会)を開催している。審査員として登場したのは、代表取締役の松浦勝人氏、小室哲也氏など重役たちだ。そのエイベックス・ベンチャーズの仕掛け人である西島英教氏は、テクノロジーに力を注ぐ理由について、メディア取材に次のように答えている。

<CDセールスの減退や若者のテレビ離れ。この4〜5年、これまで従事していたタイアップ楽曲の広がりに限界を感じ始めていました。ある折、アメリカの「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」へ視察に行く機会があり、そこで「音楽とテクノロジーが良い形で連携することで、ヒットが生まれるかもしれない」というヒントを得たんです。そこから少しずつテクノロジーやスタートアップと触れ合う機会を持つようになり、より一層「音楽×テクノロジー」の必要性を強く感じるようになりました。つまり、音楽を世の中に広く届けるためにスタートアップが持つ新しいテクノロジーや想像力を生かしていくべきだということです>(ウェブメディア「SENSORS」の2017年5月17日付記事「『エイベックス・ベンチャーズ』仕掛け人に聞く”エンタメ特化CVC”の狙い~小室哲哉、松浦勝人らが審査員を務めたピッチレポート」より引用)

なおエイベックスは、上記スタートアップ支援の他にも、2017年11月にVR・AR・MR関連イベント「avex-xRハッカソン」を自社社屋内で開催している。また、人工知能の活用にも積極的だ。9月には、日本マイクロソフトと共同でAIソリューション「Microsoft Cognitive Services」の実証実験を進めていくことを発表。今後、ライヴやイベントに訪れた観客の表情、音楽、盛り上がり具合などを相互に分析・数値化し、最終的に観客満足度を向上させることを目標に実用化を目指すとしている。

<Microsoft Cognitive Searchには、人物の表情から感情を推測するEmotion APIが備わる。Emotion APIは機械学習で蓄積されたインテリジェンスから怒り/軽蔑/嫌悪感/恐怖/喜び/中立/悲しみ/驚きなど人々の感情を読み取れる。来客者の細かな表情の変化を数値化し、分析することで従来の評価とは異なる定量的な評価が期待できる。これによりアーティストのパフォーマンススキルや人気度の測定、イベントの質や満足度向上に向けた取り組みも可能になるほか、会場物販での属性データ(性別や年齢など)、ECサイトとの連動など販促活動との連携も可能になる>(「マイナビニュース」2017年9月1日付記事「エイベックスと日本マイクロソフト、観客の表情などAIでライヴを定量評価」より引用)

韓流エンタメ界もテクノロジーに熱視線

人的交流や資本関係など、エイベックスと深い関係にある韓国エンターテインメント企業・SMエンターテインメント(以下、SM)も、テクノロジーの導入に強い関心を見せている。同社は、日本でも高い集客力を誇る「東方神起」「SHINee」、「少女時代」「EXO」など、多数の人気韓流アイドルを抱える国内業界最大手である。

SMは、「コンシューマー・エレクトロニック・ショー2017(以下、CES)」で、音声アシスタント端末のプロトタイプ「ウィズAIアシスタント」を公開。同製品は、SMに所属する芸能人の声が搭載されたAIアシスタント端末で、同社が所有する音楽コンテンツなどとも連動していた。2017年は日本も「家庭用AIアシスタント元年」を迎えることになったが、SMは2106年の段階で「差別化されたAIパートナー」、もしくは「付加価値の高いAIアシスタント」に焦点を合わせていたことになる。

SMのAIアシスタント開発構想は、CES後も着々と進んでいるようだ。同社最大株主であり、韓国エンターテインメント業界のドンでもあるイ・スマン会長は「(ユーザーが)AI芸能人とともに生活し、カルチャーコンテンツを楽しめる世の中がくる」と予言。2016年6月には、米AI企業・ObENと共同出資し、香港にAI Starsという新会社を設立している。

なお、ObENはディープラーニングで仮想人格を生み出す技術を保有した企業。AI StarsではAIアーティストや、新しい曲や振り付けを生み出せるAIクリエイターを開発・実用化していく計画だとしている。

紹介したように、エンターテインメント業界では今、新しい表現手法を確立したり、マーケティングを支援するという理由を超えて、より直接的にテクノロジーと結びつこうとしている。技術とエンターテインメントのさらなる接近は、どんな新たらしいカルチャーを生んでいくのだろうか。引き続き注目してい行きたい。