災害を予測せよ…AIに課せられた新たな使命

日本の地震予測の権威がAI採用に言及

測量学の世界的権威として知られる東京大学名誉教授の村井俊治氏は、2018年から自身の開発した「MEGA地震予測」にAI(人工知能)などの最新技術も導入していくことを明かした。

現在、同予測のベースとなっているのは、全国1300カ所に設置された国土地理院の「電子基準点」のGPSデータだ。そのデータをもとに地表のわずかな動きをキャッチし、地震発生との関連を分析。1週間ごとの基準点の上下動による「異常変動」、地表の長期的な「隆起・沈降」(上下動)、地表が東西南北のどの方向に動いているかを表わす「水平方向の動き」の3つを主に分析し、総合的に予測してきた。

結果、2016年4月に発生した熊本地震を直前に「熊本・鹿児島で顕著な沈降傾向」と注意喚起するなど、村井氏によって多くの大地震の兆候が指摘されてきた。AIの導入によって、より膨大で詳細なデータの解析が可能となるため、さらなる精度の向上を目指しているという。

こうした災害予測の分野においても、現在、AIを活用する動きが広がっている。

例えば、総務省は2018年度より人工衛星で集めた地球上の観測データを使い、自然災害を予測するシステムの実証実験を行うと発表している。海や山、都市部の建造物などの情報を宇宙から把握し、崖崩れやビルの倒壊などが発生する前にどんな予兆があるか、AIを使って解析するという。2020年度にも実用化し、災害に強い街づくりにつなげる。

総務省が開発を進めるこのシステムは、準天頂衛星「みちびき」による全地球測位システム(GPS)のデータなどを使用し、3次元の情報を把握するだけでなく、時間によって地形や建物がどう変化したのか解析するという。

一例を挙げれば、ある山の様子について1日~1カ月ほどの周期でデータを集めるとする。実際に崖崩れが発生した場合、その前に山肌などがどう変化をしていたかをAIを使って検出し、「こんな地形変化があれば何日後に何%の確率で土砂崩れが起こる」などの予測を割り出すことで、避難指示を出せるようにするのだ。

災害予測データはインフラ整備データにも応用可

また、橋や道路の管理にも利用可能だ。道路が陥没する予兆を把握できれば、適切なタイミングで無駄なく補修工事できる。時間による変化を解析するため、住宅の照明の点灯度合いで空き家かどうかを判断したり、桜の開花予想に活用したりするなど、幅広い用途でも使えるという。

ほかにも、防災科学技術研究所が、日本経済団体連合会や文部科学省が提唱するスマート社会「ソサエティー5.0」の実現に向け、気象やインフラの情報基盤「防災・減災情報サービスプラットフォーム」の作成に乗り出している。国や企業が持つ情報から、AIでテーマに沿った情報を選び出す仕組みの構築を目指すという。大雨の時でも安全な自動運転や、地震被害予測の精度向上などの研究に生かしていく。

プラットフォーム作成には、国土交通省や気象庁、自動車やインフラ関連の企業や大学の参画を目指しており、特に内閣府の大型産学連携プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)のうち「自動走行システム」と「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」に参画する企業や大学などに呼びかけを行ってきた。

国が保有する大雨や台風といった気象情報のほか、企業が収集した地震による建物の倒壊状況などから、AIを活用して短時間で最適な情報を選ぶ。

さらに、2017年11月に開かれた最新の防災研究の成果や取り組みを報告する国際会議「世界防災フォーラム」では、津波データを学習させたAIと高速の計算能力を持つスーパーコンピューターを活用し、地震発生直後に津波浸水予測区域図(ハザードマップ)を作成する技術などを富士通が披露した。同研究所の大石裕介シニアリサーチャー(東北大特任准教授)は「津波到達までの間にリアルタイムで更新すれば、より迅速で正確な避難行動が可能になる」と語った通り、ICT(情報通信技術)によって膨大な災害データを収集・分析することで、被害予測や避難誘導に役立てることが期待されている。

二次災害の防止にAI活用…世界初の取り組み

一方、災害そのものの予測だけでなく、NTTドコモが開発した「時空間変数オンライン予測技術」によって混雑を予測することで、二次災害の発生を防ぐことも可能になるのではないかと言われている。

このシステムは、日本地図を250~500m四方のマス目に切り分け、携帯電話がどの基地局の近くにあるかという情報を元に、人数分布を推計するというもの。世界初の技術で、災害時の効率的な救助や避難誘導にも役立つと注目されているのだ。

そもそも携帯電話は、いつでも通話やデータ通信を始められるよう、未使用時でも最寄りの基地局と電波をやり取りしており、通信会社はどの基地局にどの端末がつながっているかを24時間把握しているものの、「誰がどこにいるか」という秘密性の高い情報を含むため、ほかの事業体やサービスが利用するのは困難であった。

しかし、このドコモの技術では、基地局の情報をまとめ、電話番号などがわからないよう加工してから使用することで、その問題もクリア。加工には約30分かかるが、AIは過去の人の動きなどをもとに、入力された情報から30分後の人の分布を予測するため、結果として現時点の状況がわかるようになるという。万が一、災害が起きた場合にも、現在の人数分布に応じた効率的な救助隊の派遣ができるようになり、適切な初動対応の実施が期待される。

世界中で未曾有の自然災害が多発している昨今、こうした災害予測の需要は今後ますます高まるだろう。AIの活用によってその精度がさらに上がり、少しでも被害を未然に防げるよう、研究が進むことを期待したい。